進行直腸がんの手術―リンパ節側方郭清

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進行直腸がんの手術―リンパ節側方郭清

大田 貢由

大田 貢由先生横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器外科 准教授

進行直腸がんの手術において、リンパ節へのがん転移をどう防ぐかという治療方針が欧米と日本では大きく異なっています。このような違いはどこから生まれたのでしょうか。日本で確立された手技であるリンパ節の側方郭清(そくほうかくせい)について、横浜市立大学附属市民総合医療センター・消化器病センターの大田貢由先生にお話をうかがいました。

リンパ節側方郭清とは

進行がんの手術では、腫瘍ができている部位だけを切除するのではなく、転移する可能性のある周囲のリンパ節を一緒に取り除くことがあります。これをリンパ節郭清(かくせい)といいます。側方郭清とは、直腸がんの手術の際に直腸周辺のリンパ節だけではなく、骨盤側壁にあるリンパ節を郭清することをいいます。

直腸がんは他の大腸がんとは異なり、腸管周囲のリンパ節だけではなく、直腸から少し離れた骨盤の側壁にあるリンパ節に転移することがわかっています。その頻度は進行下部直腸がん(肛門に近い部分)の場合、10〜20%です。この転移したリンパ節からの再発を防ぐために、郭清すなわちリンパ節を取り除くべきであると考えられていました。

日本と欧米の治療方針の違い

ところがこの側方郭清は、欧米では1980年代の終わり頃には行なわれなくなりました。その理由は2つあります。まずひとつは郭清効果が乏しいことです。リンパ節郭清を行なっても患者さんの生命予後(手術後にどれだけ生きられるか)に寄与しないということが明らかになったのです。

もうひとつの理由は、合併症が多いことです。骨盤の側壁には重要な血管や神経が張り巡らされていているため、神経障害によって術後に排尿障害が起こる、あるいは術中に出血して重大な事故に至るなどの合併症が多かったのです。この2つの理由により側方郭清が行なわれなくなり、代わりにその部分に放射線を照射することによって治療成績を向上させることが考えられました。

1980年代の終りにかけて大きく舵が切られ、その結果、欧米を中心に側方郭清は行なわれなくなりました。現在、側方郭清を標準治療としているのは、おそらく日本だけです。

左図:直腸がん手術のリンパ節側方郭清

 

では、なぜ日本だけが現在に至るまで側方郭清を標準治療としているのでしょうか。欧米で側方郭清が行なわれなくなっていった1980年代に、日本では自律神経温存側方郭清といって、神経を損傷することなく側方のリンパ節を郭清する手技が登場し、1980年代の終わりから2000年頃までの間に確立していきました。

この手技であれば、少なくとも排尿障害をきたすなどの合併症はありません。リンパ節郭清による効果の有無は別としても、安全に行える手術手技として定着したため、日本では今でも側方郭清が行なわれています。欧米の医師たちは側方郭清を安全に行うことはできないと考え、日本ではそれができると考えたのです。自律神経温存側方郭清が日本で開発された時期には、欧米ではすでに側方郭清が行なわれなくなっていたため、失われた技術として欧米に広まることはありませんでした。

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執筆/インタビュー

大田 貢由
大田 貢由先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器外科 准教授

低侵襲な大腸がんの腹腔鏡下手術を得意とするエキスパート。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)大腸がんグループの施設研究責任者やYCOG(横浜臨床腫瘍研究グループ)

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低侵襲な大腸がんの腹腔鏡下手術を得意とするエキスパート。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)大腸がんグループの施設研究責任者やYCOG(横浜臨床腫瘍研究グループ)の研究代表者を務め,臨床研究を積極的におこなっている。

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